2023年の建設業界動向
国土交通省、厚生労働省は今月2日、建設業の人材確保・育成に多角的に取り組むための予算概算要求の概要を発表しました。建設業の人材確保・育成は、国土交通省と厚生労働省が連携して取り組んでいる課題であり、どのような事業にどれくらいの金額を使うのか、予算の要求額が毎年公表されます。
この記事では、2023年(令和5年)の予算概算要求からわかる来年度の建設業の動きをご紹介していきます。
3つの項目
この予算概算要求は「人材確保」「人材育成」「魅力ある職場づくりの推進」の3つの大項目に分けられており、その中で様々な対策が計画されています。
人材確保
建設業への入職や定着を促すため、建設業の魅力の向上やきめ細かな取組を実施していくことを目指す分野です。
方針の右側の金額は予算の概算請求額で、かっこ書き内の数字は2022年当初の予算額です。各取り組みの具体的な内容についてもかいつまんでご紹介します。
・建設産業の働き方改革の実現(具体策は下記5つ):概算請求額2.56億円(昨年1.68億円)
① 適正な工期設定等による働き方改革の推進
工期の設定状況や課題等について実態調査及び働きかけを行うとともに、生産性向上に関する好事例集の作成等を通じ、横展開を推進。
② 建設技術者の働き方改革の推進
技術者の効率的な現場配置に向け、建設現場における業態別のICT(情報通信技術)活用状況等を調査し、先進事例を収集するとともに、生産性向上のための制度的な課題や対応策を検討。
③ 地方の入札契約改善推進事業
全地方自治体の入札契約適正化の取組状況を調査し公表するとともに、個別団体への改善支援等を通じて、地方自治体の入札契約の改善に向けた取組を推進。
④ 建設産業の担い手確保に向けた建設業への入職・定着の促進
・女性の定着促進のため、中小建設企業でも活用可能な先進事例取組を収集し、各地域で経営者の意識改革をテーマとしたセミナーを開催。
・工業高校への入学・建設業への入職増につなげるため、進路が固まっていない中学生等に建設業の魅力を発信する等の取組を実施。
⑤ 建設キャリアアップシステム(CUUS)の普及促進や適正な雇用関係の促進
CCUSや不適正な請負契約を防ぐツール(働き方自己診断チェックリスト)について、全国各地で説明会を実施し、CCUSの導入促進や社会保険の加入を含む適正な雇用関係への誘導につなげる。
・ハローワークにおける人材不足分野のマッチング支援:43.6億円(昨年44.4億円)
「人材確保対策コーナー」の設置やセミナー、事業所見学会、就職面接会の実施等。
・建設事業主等に対する助成金による支援:76.7億円(昨年68.4億円)
雇用管理改善や人材育成に取り組む中小建設事業主等に経費や賃金の一部を助成。人材確保等支援助成金、人材開発支援助成金およびトライアル雇用助成金が設けられている。
・高校生に対する地元における職業の理解の促進支援:1,800万円(昨年1,800万円)
高校内企業説明会の実施等。
人材育成
若年技能者等を育成するための環境整備を目指す分野です。
・建設産業の働き方改革の実現:2.56億円(昨年1.68億円)(再掲)
※「人材確保」の項目で紹介した内容と共通。
・大工技能者等の担い手確保・育成支援:6,000万円の内数(昨年5,000万円の内数)
木造住宅の生産体制の整備を図るため、民間団体等が行う大工技能者等の確保・育成の取組に対する支援を延長し、中小工務店等のDX推進による労働環境向上を図る取組を重点的に支援する。
・中小建設事業主等への支援:4.8億円(昨年5.2億円)
離転職者、新卒者、学卒未就職者等を対象とした、訓練カリキュラムの策定、訓練生募集、職業訓練の実施、就職支援をパッケージで業界団体が行う事業を実施する。
・ 建設分野におけるハロートレーニング(職業訓練)の実施: 1.3億円(昨年1.2億円)
建設機械等の運転技能だけでなく、パソコンスキル講習等と組み合わせたハロートレーニング(職業訓練)を引き続き実施する。
建設分野の職業訓練受講者に対するリーフレットを活用したCCUS(建設キャリアアップシステム)制度の周知を実施する。
・ものづくりマイスター制度による若年技能者への実技指導: 21.9億円(昨年19.7億円)
・建設事業主等に対する助成金による支援: 76.7億円(昨年64.9億円)(再掲)
※「人材確保」の項目で紹介したものと共通。
魅力ある職場づくりの推進
技能者の処遇を改善し安心して働けるための環境整備を目指す分野です。
・建設産業の働き方改革の実現(再掲):2.56億円(昨年1.68億円)
※「人材確保」および「人材育成」の項目で紹介したものと共通
・建設職人の安全・健康の確保の推進:1,100万円(昨年900万円)
建設現場における安全衛生対策の着実な実施に向け、下請業者が負担することとなった安全衛生経費を内訳として明示するための「標準見積書」の作成、安全衛生経費に関する戦略的広報等の安全衛生対策を全国に展開していく取り組みを引き続き実施し、建設職人の安全・健康の確保の推進を図る。
・建設業許可の申請手続等の電子化の推進 :1.34億円(昨年0万円)※ デジタル庁一括計上経費
令和5年1月から運用開始予定の建設業許可等電子申請システムにより、申請手続きに係る事務負担の削減を図る。
民間事業者団体が保有する情報の活用や電子署名機能の追加等の機能拡充により、申請者・行政庁双方の利便性向上を図る。
・働き方改革推進支援助成金による支援:68.4億円(昨年66.0億円)
建設業を含む適用猶予事業・業務への時間外労働の上限規制等に円滑に対応するため、生産性を高めながら労働時間の短縮等に取り組む中小企業・小規模事業者や中小企業から構成され、傘下企業を支援する事業主団体に対する助成を行う。
・働き方改革推進支援センターによる支援:36.7億円(昨年43.8億円)
47都道府県に「働き方改革推進支援センター」を設置し、窓口相談、企業訪問、コンサルティング情報発信等を行う
・雇用管理責任者等に対する研修の実施:8,200万円(昨年8,200万円)
熟練労働者と若年労働者が円滑なコミュニケーションを取りながら働くことのできる環境づくりの手法等を学ぶ「コミュニケーションスキル等向上コース」を建設業の雇用管理責任者等に対して実施する。
・「つなぐ」化事業の実施:2,800万円(昨年2,800万円)
高等学校(工業科、普通科)や高等専門学校への出前授業や現場見学会等の実施。
・建設業の一人親方等の安全衛生対策支援事業 1.1億円(昨年1.1億円)
労災保険に特別加入している一人親方等に対する安全衛生教育、一人親方等が入場している工事現場への巡回指導を実施。
・中小専門工事業者の安全衛生活動支援事業の実施:9,600万円(昨年9,600万円)
安全衛生管理能力の向上のための集団指導・技術研修会、パトロール、個別指導等を実施。
・労災保険特別加入制度の周知広報等事業の実施:3,000万円(昨年3,000万円)
一人親方等への労災保険特別加入制度の周知広報を実施。
・墜落・転落災害等防止対策推進事業:8,700万円(昨年8,700万円)
足場からの墜落・転落災害の防止対策の充実強化のための専門家による診断の実施、診断結果に基づく現場に対する指導・支援等を実施。
・建設事業主等に対する助成金による支援:76.7億円(昨年68.4億円)(再掲)
※「人材確保」および「人材育成」の項目で紹介したものと共通
昨年度予算からの大きな変更点はなし
本年度はほとんどの項目が昨年度からの継続または拡充案件です。一部新規施策が盛り込まれる予定なのは「働き方改革推進支援助成金による支援」のみです。
また、概算請求の金額についてもほとんどの項目で微増または微減にとどまります。昨年と同等の支援が受けられるものと思われます。
助成金の拡充に注目
人材確保、人材育成や働き方改革を推進するための助成金は引き続き来年度予算にも盛り込まれる見込みです。
「建設事業主等に対する助成金による支援」は昨年68.4億円に対し今年度の請求額は76.7億円。「働き方改革推進支援助成金による支援」についても昨年66.0億円に対し今年度68.4億円 と、助成金による支援は拡充される見込みです。続く人材不足や昨今の働き方改革による社内規定の整備などは助成制度を活用し対応していきましょう。
参考:国土交通省